センター長挨拶

京都大学フィールド科学教育研究センター長 舘野 隆之輔

tateno2024

 フィールド科学教育研究センター(略称「フィールド研」)は、全国に森、里、海の10か所のフィールド施設を運営しています。教育面では、学内共同教育研究施設として、隔地施設のフィールド特性を生かして、農学部や理学部の実習、ILASセミナーなどの全学共通科目により学部教育を行うほか、農学研究科や理学研究科、地球環境学舎に協力講座を提供し、隔地施設でのフィールドワーク研究を中心に大学院教育も行っています。さらに、5施設(3拠点)が、文部科学省の教育関係共同利用拠点に認定され、全国の大学生、大学院生の教育と研究の場としても活用されています。その他、隔地施設での長年にわたる地域連携に加えて、シンポジウムや高大連携活動を通じた社会連携活動も積極的に行っています。

 研究面では、森や海を対象とした生態学や生物地球化学、系統分類学、多様性科学、進化生物学などの学問分野に加え、森林と水域の連環に関する研究、人間-自然相互作用環の解明など多岐に渡り、それらの成果は国内外で高く評価されています。2012年から2021年度まで、公益財団法人日本財団の支援を受け、森里海連環学教育ユニットや森里海連環学教育研究ユニットにおいて、森里海連環学に基づいた教育研究や実践的な活動を行ってきました。さらに2022年度からは、公益財団法人イオン環境財団から支援を受け、超学際的な研究プロジェクトである新しい里山・里海 共創プロジェクトを展開しています。

 今から50年ほど前の1972年、国連で最初の地球環境に関する会議である国連人間環境会議がストックホルムで開催され、その後、1992年のリオデジャネイロの地球サミット、1997年の地球温暖化防止京都会議(COP3)、2000年の国連ミレニアム・サミットなどが開催されました。21世紀は環境の世紀といわれますが、その始まりの時期に京都大学では、2002 年 に地球環境学堂が創設され、続いて、我々フィールド研が2003年に創立し、また学外では、総合地球環境学研究所が2001年に創設されています。いずれも地球規模や地域での様々な環境問題に対応するには、既存の学問体系に縛られない学際的な教育研究と社会と連携した実践的な活動が不可欠であるという考えに基づいています。

 フィールド研は、2023年に創設20周年を迎えましたが、この間、国内では、環境省を中心に森里川海のつながりが生み出すめぐみを自然資本ととらえ、持続的に循環利用していく地域循環共生圏の構築に向けた取り組みが始まりました。また世界では、2000年のミレニアム開発目標(MDGs)に続き、2030年までの目標として持続可能な開発目標(SDGs)が2015年に掲げられ、さらに2015年のパリ協定を受けての2050年カーボンニュートラル宣言や2022年の昆明・モントリオール生物多様性枠組での2030年ネイチャーポジティブの実現や2050年ビジョンなど、様々な目標が掲げられています。過去の国際会議でも、目標やターゲットが掲げられ、一部達成された項目もありますが、掛け声もむなしく、地球環境は悪化の一途をたどり、様々な国際問題や国内でも農山村の問題や都市問題など含め、いずれも待ったなしの状況となっています。森里海連環学が掲げるすべてのものはつながっているというメッセージは、これからの地球環境を考える上でますます重要になってくると信じており、森里海連環学が地域や地球、人々の幸福や健康に資する学問としての使命は大きいと考えています。しかし、フィールド研が単独で森里海連環学の教育研究や社会での実践を進めることは難しいため、学生や研究者だけでなく、多くの皆さんと一緒に考え、共に新しい世界を創っていければと願っています。皆様のご支援、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

(センター長就任の挨拶 2024年4月)

過去のセンター長就任挨拶はこちらからご覧頂けます
2021年 朝倉 彰
2019年 德地 直子
2017年 山下 洋
2013年 吉岡 崇仁
2011年 柴田 昌三
2007年 白山 義久
2003年 田中 克